水素ステーションとは?
次世代の「燃料電池自動車(FCEV)」のスタンドとしての役割を解説

2024年3月25日

環境へのやさしさから注目を集める燃料電池自動車(FCEV)は、ガソリンに代わって水素を燃料とし、酸素との化学反応によって作り出した電気で走行します。

排出されるのは水のみの理想的なエコカーですが、水素の貯蔵と供給を可能とする水素ステーションの整備が課題とされていて、今後の設置予定が気になるところです。

本記事では、水素ステーションの基礎知識、設置されている場所や使い方などを詳しく紹介します。

水素ステーションとは

水素ステーションとは燃料電池自動車の燃料となる水素を供給する場所で、普通車のガソリンスタンドのような存在です。

水素ガスは圧縮された状態で蓄圧器(ボンベ)に貯められていて、ガソリンを給油するときと同じように、ノズルを使って車へ充填します。

燃料である水素を供給する水素ステーションは燃料電池自動車の普及に欠かせず、経済産業省は2025年までに320ヶ所ほどの水素ステーションを全国に整備する目標を掲げています。

水素ステーションの種類

水素ステーションは、定置式水素ステーションと移動式水素ステーションの2種類に分かれます。

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種類 特徴
定置式水素
ステーション
オンサイト
方式
水素ステーション内で都市ガスやLPガスなどから
水素を製造する方式。
オフサイト
方式
別の場所で製造された水素を
水素ステーションに運んでくる方式。
移動式水素
ステーション
水素供給設備を持つ大型トレーラーで移動して、
さまざまな場所で運営できる水素ステーション。

定置式水素ステーションは、一般的なガソリンスタンドと同じように、同じ場所で運営されています。移動式水素ステーションは求められる場所で必要に応じて運営できるタイプです。

移動式水素ステーションは、水素の供給インフラがまだ十分とは言えない今、柔軟な燃料供給に大きな役割を果たしています。

燃料電池自動車(FCEV)とは

燃料電池自動車が次世代のエコカーとして注目される理由には、主に次のようなものがあります。

  1. 排出ガスゼロで環境にやさしい
  2. 静音性が高い
  3. 電気を動力にしながら充電が不要
  4. エネルギー効率が高い

燃料電池自動車は、水素ステーションから供給される水素と空気中の酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーを利用する車です。車載された燃料電池を使い、電気モーターで走行します。

走行中に排出するのは水蒸気のみで、ガソリン車のように二酸化炭素や窒素酸化物、一酸化炭素、ベンゼンなどの有害物質などの排出はありません。化学反応による発電なので、騒音が少ないのも特徴です。

また、燃料電池自動車と同じく電気を動力とする電気自動車は長時間の充電が必要ですが、燃料電池自動車は充電が不要です。さらに1回の水素補給にかかる時間は短く、電気自動車よりも長い距離を走ることができます。

水素ステーションの仕組み

水素ステーションには、水素を圧縮・蓄圧し、燃料電池自動車に充填するために、次のような設備が整っています。

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設備 役割
水素製造装置
(注)

オンサイト方式の場合

(注)

オンサイト方式の場合

都市ガスやLPガス等を利用して水素を製造する装置。
再生可能エネルギーからの電力で、
水の電気分解によって水素を製造する例もある。
圧縮機 蓄圧器に充填する水素を圧縮する機械。
効率的に圧縮できる電気化学的圧縮の技術開発も進んでいる。
蓄圧器 水素を蓄える機械で、圧力の異なる蓄圧器を複数設置して
段階的に圧力を上げている場合もある。
プレクーラー 水素をマイナス40℃まで冷却する装置。
ディスペンサー 燃料電池自動車に充填した水素の量を計量する装置。
充填に必要な操作パネルやノズルがあり、
見た目はガソリンスタンドの給油機に似ている。

上記のほか、オフサイト方式では運ばれてきた液体水素を貯蔵する貯槽、ガス化する気化器もあります。

ディスペンサーから燃料電池自動車への重点は約3分で完了します。燃料電池自動車に急速に水素ガスを充填すると、タンク内の温度が上昇する恐れがあるため、プレクーラーであらかじめ冷やしてから充填します。

水素ステーションの設置場所は?

経済産業省の後押しや補助事業の推進もあり、水素ステーションの設置は少しずつ進んでいます。

一般社団法人次世代自動車振興センターのデータによると、2023年12月7日現在、首都圏や関西圏などの都市圏を中心に全国で161ヶ所の水素ステーションが整備されています。

  • 首都圏・・・50ヶ所
  • 中京圏・・・49ヶ所
  • 関西圏・・・20ヶ所
  • 九州圏・・・15ヶ所
  • その他・・・27ヶ所
(注)

「燃料電池自動車等新規需要創出活動補助事業」の交付を受けて運用するステーションの数

現時点では経済産業省の目標とする「2025年までに320ヶ所」には遠く及ばず、水素ステーションの整備と全国展開はまだまだこれからです。しかし、究極のエコカーと呼ばれる燃料電池自動車の普及に向けて、将来的に水素ステーションの整備は着実に進められると期待されています。

出典:一般社団法人次世代自動車振興センター「水素ステーション整備状況」

水素の充填(供給)方法
(水素ステーションの利用方法)

水素ステーションには、フルサービス式のガソリンスタンドと同じように、常駐する専属スタッフがいます。水素の充填は専属スタッフにお願いするといいでしょう。水素の充填にかかる時間は満タンまでわずか3分ほどです。

まれにセルフ充填に対応する水素ステーションもありますが、ご自身で充填するには安全事項や操作の説明を受けなければなりません。

水素ステーションは設置場所が限られているため、出かける際は水素の残量や水素ステーションの場所を確認しておきましょう。2023年12月現在、高速道路上には水素ステーションがないため、注意が必要です。

また、水素ステーションの営業時間は場所によって大きく異なります。9時から21時までのところもあれば12時半から17時半のところもあり、12時から13時は休業するなどさまざまです。水素ステーションを探すときは営業時間もあわせて確認しておきましょう。

水素ステーションでの
水素の販売価格は?

水素の販売価格は水素ステーションごとに異なりますが、2023年時点での水素の販売価格は1,200〜1,700円/kgほどとされています。

実際に水素の充填にどれくらいかかるかについては、TOYOTAの燃料電池仕様車「クラウンセダン(FCEVモデル)」の例をみておきましょう。

TOYOTA公式サイトによると、クラウンセダンは水素タンク141Lで、約5.6kgの水素を充填できるとあります。そのため、販売価格1,200~1,700円/kg の水素の場合、5㎏を充填すると6,000円~8,500円くらいかかるとわかります。

経済産業省の発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」には、現状(2020年)に対して供給コストを、2030年は3分の1以下、2050年は5分の1を目指すとあり、今後は少しずつ水素の販売価格が下がると予測されます。

水素ステーションの普及は
高額コストの解決がカギに

2050年までの実現を目指すカーボンニュートラルにも大きく貢献すると期待される燃料電池自動車ですが、利用を広げるには水素ステーションの普及が不可欠です。しかし現状、水素ステーションの普及はあまり進んでいません。

水素ステーションの普及が進まない理由の一つが、設置や運営にかかる高額なコストだとされています。

例えば、2019年時点の水素ステーションの整備費は4.5億円、電気代などの運営コストは年4,300万円というデータがあります。この数値はガソリンスタンドの整備費の約4~5倍、水素ステーションと同じく気体を充填する天然ガスステーションの運営コストの約2倍です。

国や自治体による補助金や補助制度が広がっていますが、高止まりしている整備費や運営コストに、事業者が手を出しにくいと考えるのも仕方ないかもしれません。

今後は、充填能力を抑えたり小型化したりなど、事業者が整備しやすい水素ステーションの開発や推進が期待されます。

本記事の情報は2024年2月末時点での内容です。

監修:鈴木ケンイチ

1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを、分かりやすく説明するのを目標とする。